世界の国からこんにちは(『恋人たちは濡れた』神代辰巳)

故郷って嫌だな。いや違う。ぼくを知っている故郷って嫌なんだ。もしぼくを知らない故郷があったらどうなるのかな。でもそんなことは無理だ。じゃあ、こちらから徹底的に知らないことにしよう。そうだ、自分が知らないと言えば、世界は見知らぬものになるんだ。たとえそれが故郷であったりしても。初めてみた世界のように、故郷を仰ぐ。初めて話したように、幼馴染に触れる。そんなことは無理だって?うん、そうかもしれない。どんなに頑張っても、現実はぼくの世界に浸食してくる。だから、ぼくは無意味な跳躍をし続けるんだ。馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、他にどうしたらよいか、わからない。ぼくの世界は、煌めく短刀で、海中に消えてしまったけれども、その最後のきらめきが、あなたの瞳に映ったならば、それはそれで良いのかなと思ったんだ。